No. 5
こちらに来た当初、食べ物ばかりか生活のあらゆる面で大きな違いに直面しました。これまでは、静岡県清水市内の家々が込み合った市街地に住んでおり、買い物一つするにもコンビニやスーパーに歩いて行け、郵便局、そして健康ランドまで徒歩圏内にあったのです。それと、同じような利便さを期待したのが大間違い。今後住むことになった家というのは、私の正直な表現で言うなら「山の中」でした。木々や草花、そして果物の木に囲まれた綺麗な別荘地のような所で、大きな家の窓からは太平洋の海がはるか遠くに見えるのです。こちらの夏の時期、つまり12月以降になると、その地平線上に夕日が沈み、それはそれは美しい日没になるのです。
吹く風に のせて見せたし 沈む日を
【家の窓から眺める夕日を日本の人達に見せてあげたい。山と海に静かに静かに消えゆく姿を。】
その美しさに一目惚れの娘は多大な改造工事の必要性も何のその、その場で即刻この家を買ってしまったそうです。この娘はほれ込んだが最後、後先のことを考えずに突進してしまうのです。2月初旬に購入契約が終わり、この家に入りこんでから私が11月末に移住するまでの10ヶ月の間に、母屋と私が住むことになるゲストハウスの各部屋の工事を終えていました。私が来るという決断をしたのが同年の6月でしたので、その後11月末までの5ヶ月間に、工事担当の従業員3人と娘とで、私が来ても大丈夫なように何からかにまで頑張ってやったと後になって聞きました。
でも、到着直後の私にしてみれば、この新しい環境は何からかにまで違うことばかり。自分の部屋としてあてがわれた部屋には、これまで私が慣れ親しんだ家具などがまったくなく、最初の1ヶ月位は荷物も届きませんでした。だから、ベッドと飛行機でもってきた所持品だけがあるだけ。悲しくて毎日のように泣けてきました。
ベッドも最初は家にあるものでいいかとか思っていたのですが、私には高さが高すぎ、マットレスが柔すぎるのです。全てがそういう感じで気に入らず、自分では文句を言った記憶はないのですが、娘に言わせると私の顔の表現がとても正直らしく、言葉で言わなくても顔で表現しているのだそうです。とにかく、「お母さんが望むように、楽しくなるように自分の部屋を飾ったら?」と説得され、それ以外に良い方法も見からずそうすることにしました。
この国のSarchi(サーチ市)は良質の無垢の木を使った素晴らしい家具を製造する所として知られているそうです。「せっかくだから、へんなものを買わないで、良い家具を買った方がいいよ。」と言われ、それも一理あると思い家具屋にいきました。そこで、サーチ産の家具を数点買いました。ベッド、洋服ダンス3点、そしてテーブルです。無垢製のものだけあって、しっかりしており、値段もそれなりです。この国の普通のサラリーマンの給料では買えるものではないようです。
こうしてベッドとテーブルが入り、洋服箪笥もそろい、整理整頓をし始め、気持ちも少し落ち着いてきました。こういう新しい家具が入ったので、本来なら嬉しいはずなのでしょうが、ちっとも嬉しくないのです。日本にあった古い家具、合板製でも、何でもいい。あの使い易い家具やベッド、そして込み合った隣近所の声が聞こえる町の狭苦しい生活が恋しいのです。
そんなこんなしているうちに、何とこの間買ったばかりのサーチ産の箪笥が二つも壊れてしまいました。レールの釘が外れたり、レールそのものが曲がったりということでした。保証付きなので、家具屋に電話を入れると、「オッケー、その内に行くよ。」と言い、なかなかこないのです。これが、日本なら、すぐ飛んで来るべきことなのに、一体ここの人達は何を考えているのか、「もっと仕事を真面目にやれ!」と怒鳴りたいやら、泣きたくなるやら。あまりに来ないので、直せるものは、この家の従業員に直してもらいました。
家具屋さん 見るたび思う 悪いでき
【特注の家具を頼んだが、できるまでの時間の長いこと。ようやく出来てきた品物は、三日もしないうちに、箪笥の引き出しが動かない。うわべは綺麗だが、困りもの。直してくれと頼んだら、忘れるほどの日にちがかかってしまった。】
そんないらいらした気持ちを少しほぐしてくれるような出来事がありました。娘が私の部屋に、「お母さんの部屋をお姫様の部屋のようにしてあげるね。」と言って、すごく上品でレースの入った薄いカーテンを作ってくれたのです。それは
とても綺麗、心がわくわくしてきました。お姫様か。。。
カーテンを 開いて閉じて お楽しみ
【わが部屋の美しいカーテンを何度も開いて閉めて、眺めて楽しむひと時。娘がお姫様の部屋のようなレースのカーテンを作ってくれた。】
本当に思うのです。平凡な生活の中にも心を開けば、嬉しいことや楽しいことは沢山あるのですよね。それが、なかなか見えない。とにかく、これまでの生活にばかりこだわって、こだわって、それでくたびれてしまい、また悲しくなる。それが、今までの生活のパターンでしたが、このカーテンを機に、私の生活も少しずつ変わって行くようになりました。どのように変わっていくのか、次号をお楽しみに。
よしい
初めまして。お母様の88歳からのコスタリカでの新生活、非常に興味深く読ませて頂きました。 これからも楽しみにしております。 ひさのさんにも宜しくお伝えください。
投稿情報: MasaTky | 2010/07/24 22:29